『氷河ネズミの毛皮』そして『水仙月の四日』 その4
『氷河ネズミの毛皮』そして『水仙月の四日』 その4
ベーリング行きの最大急行の同乗客の中に
黄色い硬い帆布の上着を着た若い船乗りらしい青年がいます。
この青年のイメージが今ひとつ掴みきれないままに朗読の稽古を進めていました。
青年は自分にだけ聴こえるくらいの微かな音量で口笛を吹き、
窓ガラスに付いた氷をポケットから取り出したナイフでがりがりと削り
一人夜空を見上げています。
酔いのまわったイーハトブのタイチが青年に話しかけても
そんな言葉は耳にも入らないようでした。
この寡黙な青年がお話しの後半で白熊たちの襲撃をびしっと解決します。
(前略)
青年はしっかりその(赤ひげの)襟首をつかみピストルを胸に突き付けながら
外のほうへ向いて高く叫びました。
「おい、熊ども。貴様らのしたことはもっともだ。
けれどもな おれたちだってしかたない。
生きているには着物も着なけぁいけないんだ。
お前たちがさかなをとるようなもんだぜ。
けれどもあんまりむほうなことはこれからきをつけるようにいうから今度は許してくれ。
ちょっと汽車が動いたら俺の捕虜にしたこの男は返すから。」
(後略)
なんてったってかっこいい活躍ぶりの彼なので
なんとなく二枚目のシティーボーイというキャスティングで朗読していました。
けれどもどうしてもキャラが決まらないので何かよい工夫を加味できないか
ああでもないこうでもないとあれこれ思いを巡らしているうち突然閃きました。
標準語の感じから離れてセリフにお国言葉のイントネーションをつけて、
しかも漁師という仕事柄の風合いを滲ませてみることにしました。
ようやく自分の納得のいくような読みに半歩近づけました。